新体力テストに関する要求書

データ提出方法の変更

今年度、県教委健康体育課より「依頼(通知ではありません)があり、新体力テスト結果の提出方法が変わりました。

(Googleフォームでの)入力・提出については、児童生徒が各自の端末から個人で入力・提出するか、児童生徒が入力することが難しい場合は、担当教諭等が代理で入力・提出する。

県教委からの依頼文A(4月17日付)より

低学年児童が自分でできるわけないので、基本的には教員がやることになります。学校によっては、夏休みに教員が一台一台のタブレットを開いて入力するそうです。「働き方改革」に、完全に逆行しています。

依頼の中には、このような但し書きもありました。

学校の実態に応じて、入力・提出が難しい場合は、従来通り(Excel)の提出方法も可とする。ただし、その場合は、各市町村教育委員会を通じて、当該教育事務所から健康体育課に連絡し、提出に関する指示を受けること。

県教委からの依頼文B(4月17日付)より

「従来通りでも可」と言いながら、「指示を受けること」というのは解せません。そもそも「依頼」のはずなのに、断ることができない想定です。断れない依頼は「命令」です。(命令する法的権限はないので、依頼という体裁をとっていると思われます)

実際、体育主任会等で「従来通りでやらせてほしい」と要求したところ、市町村教委の段階で「ダメ」と言われた(あるいはそういう空気を出された)自治体もあったようです。

そもそも体力テストは必要?

全群教は要求書を作成し、県教委への申し入れを行いました。

なぜ、忙しい学校現場をさらに苦しめるのでしょうか。私たちは「仕事がしたくない」と言っているのではありません。無用なことに時間を費やすのではなく、もっとよい教育をするために時間と労力を使いたいのです。

全群教では以前から、「悉皆の体力テストは不要」という主張をしています。

小5と中2を対象に国が行う調査で必ずニュースになるのが「県平均が全国平均を上回っているかどうか」です。

全学年、悉皆で練習すれば、小5・中2段階でも高い平均値が期待できます。でも、調査とは「傾向を知るため」に行うものなのだから、よい数字を出すために練習する必要はないはずです。

とりわけ、運動の楽しさに触れるべき低学年時に新体力テストを行う意味があるとは思えません。少なくとも低学年児童の悉皆調査は早急にやめるべきだと考えます。

本当の働き方改革とは?

私たちは、教委が現場を混乱させるために提出方法を変更したとは思っていません。効率化を図り、よりよいやり方を模索した結果だと思います。そして集計する教委側や、中学校現場では効率化されたのかもしれません。

しかし小学校現場は大混乱しています。だから、やめてほしいだけです。よかれと思ってやったことが逆効果になるのはよくあることです。そこを責めるつもりはありません。やってみて問題が生じたのであれば、「決めたことだからやる」ではなく、一度立ち止まるべきではないでしょうか。せめて、「提出に関する指示を受けること」などと忖度を求めず、従来通りの方法で提出する道を残すべきです。

私たちの要求に対して県教委は、「なるべく負担が少なくなるような方法を検討していく」と答えました。

しかし、本当の働き方改革とは「不要なものを効率化すること」ではなく、「不要なものをなくすこと」ではないでしょうか。『全学年悉皆で行う』という縛りをなくせば、問題は解消します。

教育内容への介入

・小1から中3までの記録を積み上げていくことで、体力向上への関心や意欲を高めることができる。

・低学年から多様な運動経験を増やすきっかけとなる。

・体力の実態を客観的にとらえ、児童生徒の実態に即した指導を充実できる。

健康体育課の通知(?)より

「新体力テストを実施することの利点」として、健康体育課から出された文書です。

教育行政として「児童生徒の体力調査のため」に、学校現場に依頼をするのは分かります。しかし、「このやり方が正しいから、この方法で指導しなさい」と、教育内容に介入するのは問題です。

教育委員会の仕事は、教育条件や環境の整備です。教育課程の編成権は学校にあり、「どう授業を進めていくべきか」という教育内容に責任をもつのは現場の教師自身です。

教育は、教師と子どもたちとの人格的ふれあいを通じて行われる営みである。
人間は教育によってつくられると言われるが、その教育の成否は教職員にかかっていると言っても過言ではない。

中教審答申(2005年)より

もちろん私たちは「それぞれの教師が独りよがりで好き勝手にやればいい」と言っているわけではありません。だからこそ組合では、互いの実践を持ち寄って自主的な学習会も開催しています。教師自身も安易にマニュアルを求めるのではなく、自身の専門性に矜持をもって、自ら学び続けるべきです。だから私たちは、自ら学び考える時間を奪う労働強化に抗議しています。

教委が言うように、「記録を積み上げることが、意欲を高めること」につながるとします。そして悉皆でやるとしても、結果を県教委に提出する必要はないはずです。子どもたちが自分の成長を自分で認識し、意欲が高まればよいからです。提出義務がなくなれば、提出に関わる労働強化の問題は解消します。

さらに現場の先生たちは、自分なりのやり方で子どもたちにフィードバックできるようになります。マニュアル仕事の増加による長時間労働は苦痛でしかありませんが、「子どもたちのために何ができるか」を考える創造的な時間は楽しいものです。マニュアルを示さなくても、先生は子どもたちのために頑張ります。自分たちが採用した先生を、もっと信じてほしいと思います。

強制はしない

県教委としては、「全群教の意見も参考にし、やり方を検討する」ということでした。当面、「昨年度までのやり方で提出したいという申し出があった場合、Googleフォームでの提出を強制しない」という約束をしました。ぜひ学校内で話し合い、市町村教委とも話し合っていただきたいと思います。

私たちは教育委員会(事務方含む)を尊重しています。県内には教職員が2万人以上、小・中・特別支援学校の児童生徒だけでも14万人以上おり、全員が100%満足する施策がとれるはずはありません。限られた予算の中、あらゆる方面に配慮しながら仕事を進めなければならない立場は非常に大変だと思います。

しかしあらゆる方向に配慮することで、「あれもやらねば」「これもやらねば」と、仕事を増やしがちになります。現場の教職員も人間であり、誰にとっても1日は24時間しかありません。仕事を増やせば、何かを削ることになります。多くの教職員は「子どもたちのため」という思いから、自分の生活を削ります。それが今の学校現場の疲弊につながっています。

ツイッターや給湯室で「教育委員会は現場を分かってない」とボヤいても、現実は変わりません。教委も現場も、「子どもたちのためによりよい教育をする」という目的は同じです。だからこそ私たち自身が「これ以上できません」と声をあげることが大切です。教職員が疲弊してしまったら、よい教育などできるわけがないからです。勇気をもって「できない」と言うことが、子どもたちのためになることもあるのです。

意見も立場も違う人たちが、話し合いで問題解決を目指すのが民主主義です。「いつも組合が正しくて、教委が間違っている」と言うつもりもありません。だからこそ、対等な立場での話し合いが大切だと考えています。

多くの人が組合に結集し、教委と交渉することで、よりよい教育を実現していきたいものです。

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