プールの水栓 閉め忘れた。賠償請求されたらどうしよう…

プール指導再開

今年はプール指導が再開される学校が多いようです。

賛成・反対、さまざまな意見があるとは思います。絶対的な正解はありませんが、問答無用のトップダウンで決まったのか、それとも先生方の間で議論がなされたのか、また保護者や子どもたちの意見を聞く機会はあったのか、が気になります。

それとは別の問題として、プールの水栓閉め忘れによって担当の教員が損害賠償請求を受ける事例が報道されています。

損害賠償請求

想像してください。

①あなたはプール担当として水栓を閉め忘れ、自治体に金銭的な損害を与え、損害賠償を請求されました。あなたならどうしますか?

②あなたはプール担当ではありませんが、同僚が水栓を閉め忘れ、自治体から損害賠償を請求されています。あなたならどうしますか?

③あなたの家族(配偶者や子など)がプールの水栓閉め忘れで損害賠償を請求されています。あなたならどんな助言をしますか?

 

ここ数年の報道を抜粋してみます。

千葉市中央区の市立小学校が昨年夏、プールの給水口の栓を閉め忘れ、水を大量に流失させるミスを起こした問題で、市教委は22日、県水道局から請求された水道料金約438万円を該当校の男性校長、男性教頭、ミスをした20代の男性教諭の3人が弁済したと発表した。3人が自費で弁済したいと昨年12月に市教委に申し出たため、意向を尊重したという。負担割合は3分の1ずつで、今月19日に弁済が完了。市教委は3人を厳重注意とした。

千葉日報(2016年2月23日)

綾瀬市立綾西小学校(神奈川県)でプールの給水栓を閉め忘れ、約4千立方メートルの水道水が流出した問題で、同市は18日、人見和人教育長ら教育委員会事務局と学校関係の計7人に対し、上下水道料金の損失額の50%(約54万円)を損害賠償として請求し、厳重注意などの処分にしたと発表した。

朝日新聞デジタル(2019年1月20日)

高知市の小学校で2021年の夏、教師がプールの水を1週間止め忘れ、水道料金が余分にかかってしまったという出来事があった。これについて高知市は、この教師らに対し約132万円を請求することを決めた。高知市は「市民の財産に大きな損害を与えた」として、この教師に加えて校長と教頭の合わせて3人に対し、掛かった料金の半分程度の約132万円を請求することを決めた。

FNNプライムオンライン(2021年12月27日)

横須賀市は21日、市立馬堀中学校でプールの給水栓を約2カ月間、断続的に開けたままにしたことで、約423万8千リットルの水道水が流出したと発表した。担当教員が新型コロナウイルス感染を防ぐために、プールの水を常にあふれさせて水質をきれいにする必要があると勘違いしたことが原因。損失額約348万円の半額を、担当教員(約87万円)、校長(約43万円)、教頭(同)の3人に損害賠償として請求した。

カナロコ・神奈川新聞(2022年4月21日)

最適解は?

①自分 ②同僚 ③家族 が損害賠償を請求された場合の最適解は「組合に相談すること」です。さらに言えば「何かが起こってから相談する」のではなく、何かが起こる前に加入しておいた方がよいです。雨が降ってから傘を探すより、曇りのうちに傘を用意しておいた方がいいですよね?

困ったとき、問題を1人で抱えていると「自分のミスだし仕方ない…」と思ってしまいます。せめて同じ職場に全群教の組合員がいれば「ちょっとおかしいから組合に相談しよう」となるでしょうが、組合員がいなければ「1人に責任を負わせるのはかわいそうだから、みんなでカンパしよう」といった、本質的ではない解決策に向かってしまうかもしれません。

国家賠償法

ところで、自治体は職員個人に賠償を求めることができるのでしょうか?

国家賠償法には「公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する」とあります。つまり、水栓の閉め忘れが個人の「重大な過失」と解釈されるかどうかがポイントになります。

もちろん個別の事例はそれぞれ事情が異なるので一概には言えませんが、一般的に考えれば、単純なミスによる水栓閉め忘れは個人賠償を請求できるほどの重大過失ではないと考えます。

個人に賠償責任はない?

ではなぜ、ここ数年の事例では個人に賠償が課されているのでしょうか?

それは「きちんと交渉せずに了承してしまったから」と考えられます。

あなたが水栓を閉め忘れたとします。教育委員会に呼び出され、「あなたのミスなんだから仕方ないですよね。賠償額の半分は市で出しますから、残りの半分を負担してください」と言われたら、「分かりました」と言ってしまいそうではないですか?

組合であれば対等な立場で教委と交渉し、「職務上のミスを公務員個人の責任にすべきではない」と主張します。そしてきちんと交渉すれば、余程特別な問題がない限り個人賠償は求められないはずです。実際、群馬県では2010年に同様のケースがありましたが、職員個人の賠償は求められていません。

懸念されるのは、全国で個人に賠償させる事例が増えることによって、「職務上のミスを個人に負わせるのが当たり前」という風潮になってしまうことです。プールの問題だけではありません。今後はICT機器の破損などでも、個人の責任にされる事例も出てくる可能性があります。それでは安心して働くことができませんし、ミスを隠す人も出てくるはずです。

労働法の考え方

公務員の場合、複雑なところもあるので、民間企業の労働契約を例に考えてみましょう。

仮に、飲食店経営者が時給1000円で労働者を雇ったとします。その人が非常に有能で、使用者が想定した以上の利益が上がったとしても、利益はすべて使用者のものとなります。そして労働者には『働いた時間×1000円』を支払います。それが労働契約です。

ある日、その労働者がうっかりお皿を割ってしまいました。そのとき使用者が「あなたは私に損害を与えた。よって賠償してください」ということは成り立つでしょうか?

成り立ちません。使用者は労働者の労働力(時間)を買って新たな価値を生み出すことで利益を手に入れます。「利益は使用者のものだけれど、損失は労働者の責任」とするのは筋が通らない、というのが労働法の考え方です。

「プールの水道代は金額が違う!」と思う人もいるかもしれませんが、問題は金額の多寡ではありません。金額が小さくても、悪意をもってわざとお皿を割ったのであれば、賠償責任が生じます。

もちろんミスはない方がいいですし、ミスしてしまったら反省すべきです。でも、水栓を閉め忘れてしまった先生は一生懸命働きすぎて疲弊していたのかもしれません。あれもこれもと校務分掌を割り当てられて、うっかり失念してしまったのかもしれません。だとしたら本当に考えるべきは「ミスが起こってしまうシステムをどう改善すべきか」のはずです。

だから組合が大事

「職務上のミスを労働者個人の責任にしてはならない」という、労働法の知識をもっている人は多くありません。だから「あなたがミスしたんだから責任とってね」という、法よりも情を優先した対応がまかり通ってしまいます。

これは組合組織率の低下と無関係ではありません。どの職場にも必ず組合員がいる状態であれば、「これ、ちょっと変だな…」ということに誰かが気づくはずです。そして組合として対応することで、個人に対する不当な扱いをやめさせることができます。

「おかしいな…」と感じていても、何も言わずに受け入れていれば、そのおかしいことが「当たり前」になっていきます。逆に「おかしいな…」と感じたとき、その都度それを正していけば、おかしいことが減っていきます。結果的に、みんなが安心して働ける職場にしていけます。

だから組合が大事なのです。

「私、法律の知識ないので組合は…」なんて思う必要はありません。「何か、ちょっとおかしいな…」と違和感をもっているのであれば、ぜひ全群教に加入してください。一緒に学んでいきましょう。

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