「サピエンス全史」と人権教育

嘘を信じる力

世界的ベストセラー「サピエンス全史」という本があります。簡単に説明すると、現生人類ホモ・サピエンスは「嘘を信じる力」があったから、ネアンデルタール人など他の人類を駆逐して現在の繁栄を築くことができた、という内容です。一体どういうことでしょう?

自分が原始時代に生きていると想像してみてください。

嘘を信じる力がないと、目の前の事実しか信用できませんから、小集団の関係の中だけで生きていくことになります。小集団の中では、誰が獲物を捕るのが上手なのか、目で見て知っています。そしてその人についていくことが、自分の生存にとって有利なので、集団のメンバーはその人をリーダーとして認めるわけです。

しかし嘘を信じる力があると、会ったことがなくても「あの人、ライオンを素手で倒せるらしいよ」とか、「あの人、神様の子孫らしいよ」とかの噂話を信じることができます。それを体系化したものが神話であり、多くの人に神話を信じさせれば、何千、何万もの人を支配することも可能です。そして王が生まれ、国家という壮大な虚構が創造されます。

国家が虚構と聞くとびっくりしますよね。でも国家も国境も、人間が「そこにある」と信じているだけです。その証拠に、鳥は気にせず国境を越えていきます。鳥は虚構を信じることができないので、彼らにとっては国家も国境も存在しないのです。

お金も虚構です。お金そのものは何ら役に立ちません。しかし「お金は商品と交換できる」という虚構をみんなが信じることで貨幣経済が成り立ち、人間社会が発展しました。

2008年頃のジンバブエや現在のベネズエラのように、ハイパーインフレで貨幣への信頼がなくなると(つまり人々が貨幣という虚構を信じなくなると)、紙幣はただの紙に戻ります。

この、嘘を信じる力のおかげで人類は力を合わせて巨大な建造物を作ったり、お金を流通させて効率的な交換を成立させたり、国家を信じることで安全や安心を得たりすることができました。嘘を信じることができなければ、いまだに狩猟採集生活を送っていたかもしれません。

人権という神話

しかし、この力は負の効果ももたらします。搾取や差別や戦争です。人間は「こちら側の人間は尊く、あちら側の人間は劣っている」と信じることで、搾取や差別を正当化し、最後は戦争に行きつきます。

しかし人類は数千年に及ぶ悲惨な歴史の繰り返しから学び、新たな神話を生み出しました。それが「人権」です。

かつては多くの人が「自分と異なる宗教の信者を殺すことは正義」と考えていました。「戦争に勝って、他国の領土を奪うことは正義」と考えていました。でも今はそんなことを真顔で言う人はほとんどいません。「誰もが生まれながらに人権をもっている」という虚構を多くの人が信じるようになってきたからです。

虚構というと聞こえが悪いですね。でも、もし仮に戦国時代にタイムスリップして「私には人権があるから、あなたは私を殺すことはできない」と言ったとしても通用しません。相手には、「人権」という概念自体がないからです。戦国時代の人から見れば虚構でしかありません。

人が生まれながらにしてもっている権利

「人権なんて虚構だから意味がない」と言いたいのではありません。

我々人類は歴史の中で、差別・搾取・戦争など多くの失敗を繰り返しながら、ようやく「人権」という壮大な虚構を信じられるところまで進歩してきたのです。

そしてこの「信じる」ということは、誰かが信じろと言うから無条件に信じるものではありません(それでは宗教になってしまいます。誰かを無条件で信じることは、とても危ういものです)

一人一人が学び、自分の頭で考え、「人権は何よりも尊い」という共通の概念にたどり着くことが大切です。そして、そのために行うのが人権教育なのです。

学校では「人権は誰もが生まれながらに持っている権利だよ」と教えます。これ自体に疑問を持つ余地はないはずですが、私はどうもしっくりきていませんでした。

なぜなら世の中には、人権侵害の例が溢れているからです。沖縄、福島、技能実習生、強制的夫婦同姓制度、同性婚禁止、ブラック労働、ブラック校則etc 残念ですが、「人権は大事」と言っている教師自身が子どもたちの人権を侵害していることもあります。

戦争だって世界のどこかで必ず起こっています。本当にすべての人に人権が保障されるのなら、そんな問題はとっくに解決しているはずなのに、今も世界中で人権を蹂躙されている人々がいます。「誰もが生まれながらに人権をもっている」というのは本当なのだろうか?

Imagine

「サピエンス全史」を読んで、「人権も虚構」という考え方に衝撃を受けました。今まで人権という概念に疑問をもつことは、ある意味タブーだったように思います。

しかし「人権も虚構」と考えると、国内で起こっている様々な人権問題や世界で起こっている大虐殺の説明もつきます。残念ながら、人類はまだ「人権は何よりも尊い」という虚構を信じ切れるレベルまで進歩していないようです。

では、今を生きる私たちはどうすればいいのでしょうか?

人権という壮大な虚構を信じられるようになるために学ぶことが必要だと考えます。そして、学んだことを次の世代に伝えていくことです。だからこそ人権教育が大切なのです。

人権の大切さを信じられる人が増えていくことで、世の中は少しずつ良くなっていきます。そして世界中の人々が人権を信じられるようになったとき、戦争はなくなるはずです。

僕のことを夢想家って言うかもね
でも僕は一人じゃないよ
いつか君も仲間になって
世界は1つになる

私たちの仕事が100年後の平和につながるなんて、何だかドキドキしませんか?

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