教育基本法を知ろう①

教育基本法は2つある!?

教育基本法は1947年3月31日に公布施行され、長らく日本の教育の「基本」とされてきましたが、2006年12月22日、新しい教育基本法に改定されました。

この2つの教育基本法は「月とすっぽん」似て非なるものです。政府は「改正」と呼びますが、平和・人権・民主主義を大切にする立場から見れば「改悪」です。戦後民主主義の『基本』を変えてしまった大事件です。

私たちには法に従って仕事を行う義務があります。2006教基法の問題点と憲法の理念を把握した上で仕事をしないと、無意識に人権侵害をしてしまうこともあります。まずは知ることが大切です。

1947教基法

1947年、戦後すぐ という時代がポイントです。この時の人々のメンタリティは「戦争だけはもう二度とゴメンだ」というものです。「戦争しない。軍隊もたない」という世界初の平和憲法が作られ、多くの人が歓迎しました。そして、この平和憲法の理念を教育の面から実現させていくために制定されたのが「教育基本法」です。

教育基本法は、戦前の天皇制教育、軍国主義教育、それを支えた「教育勅語」や「修身」を否定し、日本国憲法と強い一体性をもつことが特徴です。

大日本帝国は教育によって子どもたちを洗脳し、戦争する国を作りました。だから戦後「日本国」は教育によって子どもたちの洗脳を解き、戦争しない国を作ると決めたのです。日本国憲法と教育基本法は「戦争しない国」を作るための両輪なのです。

われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。

1947年 教育基本法前文より

旧教育基本法では、国家権力が教育に介入することを厳しく戒めています。教育によって国策を人々に押し付けて、戦争に突き進んだことへの反省からです。教育行政の仕事は教育の条件整備であり、教育内容に口出しすることではありません。

教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。
②教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。

1947年 教育基本法 第10条より

1947年に文部省から出された指導要領(試案)も素晴らしいものでした。戦前・戦中の、上から正解を押し付ける教育ではなく、現場の先生たちの創意工夫をいかした授業によって、子どもたちが民主主義の大切さを学び取っていくことを求めています。

あれやこれやと現場を縛る、現在の指導要領とはまったく性質を異にするものです。

逆コースから55年体制へ

1950年代、逆コースの波が押し寄せます。大雑把に言うと、アメリカが統治姿勢を変え、戦後日本の形が変わっていったことを指します。

アメリカは、戦後すぐの頃は「日本を非軍事化し、民主主義の国にしよう」という理想を目指していましたが(もちろんGHQ内部でも意見対立はあった)冷戦構造の中、「もう一度日本に軍事力をもたせ、米軍を補完させよう」と方針転換しました。

1953年、池田・ロバートソン会談において、「日本政府は教育および広報によって日本に愛国心と自衛のための自発的精神が成長するような空気を助長することに第一の責任をもつ」という日米合意がなされます。

1954年、教育二法によって、教員の政治的中立が規定されます。「中立」と言いますが、教員が政治的意見をもつことを萎縮させるための法です。

1955年に結党した自民党は憲法と教育基本法の改正を党是として掲げます。

1956年、教育委員会が公選制から任命制となり、文部省の下部機関のように扱われるようになります。教育行政における地方分権の原則は崩され、教育は再び中央集権体制となっていきます。

1957年、松永文部大臣(岸内閣)民族意識や愛国心の高揚のために道義に関する独立した教科を設けたいと発言します。つまり「修身を復活させたい」ということです。

1958年、週一回の「道徳の時間」が新設されます。「道徳と修身はまったく違うもの」と主張する方もいますが、この歴史的な流れを見れば、同一線上にあることは明らかです。また、指導要領から「試案」の文字が消え、「文部省が教員を縛るための道具」に変質していきます。

こうして、自民党政権と文部省は教育基本法の理念を骨抜きにしてきましたが、55年体制の下、社会党も一定の勢力をもち、憲法や教育基本法の改悪を阻止してきました。当時は日教組も大きな力をもっており、現場での戦いもさかんでした。

60年安保闘争によって、「安易に憲法に手をつけると政権が吹っ飛ぶ」と学んだ歴代の首相が「自分の任期中には改憲を行わない」と明言してきたこともあり、長らく憲法や教育基本法が改定されることはありませんでした。

つづきは「教育基本法を知ろう②」へ

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