広がれ!「安全で美味しい給食」の無償化

「学校給食費の無料化をめざす会」代表世話人 石田清人

「地域の農業の発展と結び、地産地消・有機栽培の安心安全な食材で、自校方式による、無償の給食を国の責任で提供するとともに、日本の食料自給率の向上につなげる。当面、学校給食の運営主体である市区町村に対して無償化の要求を行うが、同時に都道府県と国に対し、無償化のための予算確保を求める」

これがいま、私たちがすすめている学校給食無償化を求める運動です。この運動は憲法に書いてあることを守り、いかす施策という意味で、「九条守れ」と同じ価値があるのではないでしょうか。同時に、思想信条や支持政党に関係なく、すべての国民共通の課題でもあると思います。

道理ある「給食無償化」の願い

2020年のコロナ休校による給食停止により、子どもの健康といのちを守る役割を担う学校給食の重要性が再認識されました。群馬では2014年に、それまでとりくんできた子どもの医療費無料化が実現したので、「次は給食だ!」と、「学校給食費の無料化をめざす会」が発足しました。その時期に無償化を実施している自治体は全国で45。10年後の今、500を越えているのは、道理があるからだと思います。

「学校給食法」は給食を「教育の一環」と位置付け、文部科学省が所管しています。憲法 26 条は「義務教育は無償」としています。本来、国が行うべき施策であり、教科書が無償であるのと同様に給食費も全額公費で負担するべきです。給食は単なる食事ではありません。子どもが食べた物は、子どもの血となり肉となります。未来を創る子どもたちが食べる物に、真っ先に予算を使い、農薬などに汚染されていない安全な食材が提供されるのは、憲法に保障された子どもの権利ではないでしょうか。

ユネスコの第14回国際公教育会議で採択された「学校給食および衣服に関する各国文部省に対する勧告 第33号」(1951年)には、学校給食は「すべての学校で、自校方式で」行い、その運営費は「中央あるいは地方行政当局の負担」と書かれています。

日本で「学校給食は保護者の負担」とされる法的根拠とされているのが学校給食法11条です。

<学校給食法>第11条

学校給食の実施に必要な施設及び設備に要する経費並びに学校給食の運営に要する経費のうち政令で定めるものは、義務教育諸学校の設置者の負担とする。②前項に規定する経費以外の学校給食に要する経費は、学校給食を受ける児童又は生徒の学校教育法第16条に規定する保護者の負担とする。

しかし、この条文は経費の負担関係を示したものであり、負担割合に触れたものではありません。「保護者の負担を軽減するために、設置者が補助することを禁止した趣旨ではない」ということは、国会審議でもくりかえし明らかにされてきました。

直近では2022年10月7日の参議院本会議で、小池晃議員(日本共産党)が、岸田首相から「保護者が負担する学校給食費を自治体等が補助することを妨げるものではない」との答弁を引き出し、物価対策の「臨時交付金」から給食費への補填をしてよいことが明らかになり、あちこちの自治体で、部分的ではありましたが、給食の無償化が行われるようになりました。これで、学校給食法が給食の無償化を行わない理由にならないことがはっきりしました。

群馬県での無償化の広がり

現在、群馬県内35自治体のうち完全無償21、一部助成13で、計34の自治体が給食無償化に向けた取り組みを行っており、未実施は高崎市のみです。

県内で給食の無償化を初めて実施したのは、2010年、「過疎化・高齢化日本一」の南牧村でした。翌2011年、隣接する上野村とその隣の神流町が続きました。このように、少子高齢化に悩む過疎の自治体が、人口減少に歯止めをかけようと子育支援の施策として打ち出したのが始まりでした。

2014年、「子どもの貧困」や給食費の滞納の報道が増加し、県内でも「子ども食堂」や「学習支援」のとりくみが広がる中、新日本婦人の会や全群馬教職員組合などが中心となって「学校給食費の無料化をめざす会」が発足しました。最初に出した県に対する署名は不採択だったので、まずは市町村に向けて全額負担を、それと併行して県に半額補助を求める署名にとりくみました。市町村段階の「めざす会」が広がり、地域に給食無償化の願いがあることが伝わるようになると、議会で反対していた保守系の議員や市町村長が、選挙の際に「学校給食の無償化」を公約にかかげるようになりました。

渋川市では、2017年2月に母親連絡会が市長との懇談の中で「学校給食無償化」を訴えると、市長がその場で「来年度からやります」。中之条町では、2018年秋の町長選挙で、反対していた町長が公約に掲げ当選し、翌年から完全無償化が実現。2023年には沼田市や昭和町、みなかみ町でも。特に、人口23万人を超える太田市での無償化実現は、大きな影響を与え、藤岡市では2024年度から完全無償化に、伊勢崎市でも「単に無償化だけでなく、子育て施策の大きな柱ととらえていく」と市長が表明しました。

行政の担当者にも、住民にも共感がひろがる

こうした運動は、行政の姿勢を変えています。給食費無償化を皮切りに、幼稚園・保育園の無料化や教材費の全額補助などに取り組んでいる嬬恋村のホームページには、「義務教育はこれを無償とすると憲法がうたっている。村の教育を憲法の理念に近づけたい」という村長の言葉が掲載されています。

群馬県「少子化対策に関する県民意識調査」で、「子育ての悩み」のトップは「出費がかさむこと」44.8%、「理想の数より子どもの数が少ない理由」の66.5%は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」などの結果を見ても、給食無償化が県民から歓迎される施策であることは間違いありません。

私たちは、給食無償化に取り組む市町村に、半分を県が負担する制度を創設させ、国の責任で無償化が実施されるまで声を上げ続けたいと考えています。

さまざまな疑問の声に、こうして対応

「お金がかかりすぎる」「バラマキではないか」

自治体の大小に関係なく、財政の約1%です。公共事業へのバラマキの方が問題ではないでしょうか。

「給食無償化にすると給食の質が下がる」

行政が保護者負担と同じ金額を負担すれば質は下がりません。無償化が質を下げる原因にはなりません。

「子どもが食べる給食費は親が払うのが当然」

経済的に困っていない人の言葉では…。給料が上がらず、非正規雇用で低賃金、ひとり親家庭の増加で、給食費を払えない家庭が増えているのが現実です。

「高齢者福祉の方が先」

どちらも大切。福祉予算を取り合いさせるのは地方自治の精神に反します。

「それより他に優先すべきことがある」

少人数学級、教職員定数増、施設設備の充実など、みんな切実な要求です。取捨選択せず、すべての要求を掲げ、可能なものから実現を勝ち取りましょう。

無償化と同時進行ですすめたいこと

2005年に制定された食育基本法は、「給食は単なる栄養補給ではなく、教育の重要な一環である」と位置付け、「生産者と消費者との交流の促進、環境と調和のとれた農林漁業の活性化」を図るため、農林水産物が生産された地域内の学校給食で利用されるよう促進するとしています。子どもの命を守る観点からも、輸入食材ではなく地域の食材で、安心安全な給食が提供されるよう、県や「学校給食会」へのはたらきかけを強めていきたいと考えています。

甘楽町は昨年10月に県内初の「オーガニックビレッジ宣言」を行い、小中学校や保育施設で町内産の有機農産物を使用すると表明しました。県内では、特別支援学校9校で有機野菜の給食が始まっています。自治体まかせにせず、国が責任もって推進するよう、無償化の要求と合わせて要求していきたいと思います。

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