なぜ学校は、こんなに人が足りないの?

県内で教員不足26人ってホント?(2023年9月1日現在)

学校で実際に働いていると、「もっと全然足りてない!」というのが実感だと思います。

正確には「教員不足が26人」ではなく、「未配置が26人」です。ちなみに教育長答弁では「欠員」という言葉を使っていました。これが「教員不足」と報道され、深刻さが伝わっていません。

未配置は何人までならOK?

未配置は何人までならOKなの?

1人でも生じたらダメです。

例えば、野球チームには9人必要です。未配置とは、「8人で野球をしろ」と言っているのと同じです。今すでに、群馬では8人で野球をしている学校が26校もあるということです。必要最低限の数の教員を配置していないのですから、子どもたちの教育権の侵害です。

そもそも日本の学校は「誰も休まない」ことを前提に人員が配置されています(北欧などでは「人間は休むもの」という前提で、ゆとりをもって人員を配置しています)。そこに未配置が生じているのですから、目も当てられません。

そして学校は1年間あります。仮に、9人必要な学校に9人ぴったりの先生が配置されていたとします。この学校では、数字上の未配置は生じていません。もし、研修で毎週必ず出張する人がいれば(そういう事例はままあります)、週1日は必ず8人になります。加えて誰かが病気になったり、家庭事情で休んだりすれば7人。さらに誰かが心を病んで病休に入れば6人(先生の精神疾患が増えています)。このように、櫛の歯が欠けるように教員が減っている現状があります。

ちなみに病休に入っても、2~3週間の病休を繰り返して取得すれば未配置カウントされません。すると9人必要なところを6人で回しているのにアラ不思議、数字上は「未配置0」となります。

足りているのに足りてない

このように、短期の病休を繰り返している場合は「未配置」となりません。そして育児短時間勤務や部分休業、再任用(退職後6割程度の給与で働いてくれている)の方たちも「定数1」として計算に入れられていますから、通常勤務の人と同じ働きを期待されます。酷い場合、育児短時間勤務で半日しか勤務できない人に担任をもたせている学校もあります。当然、膨大なサービス残業が発生しますが、それは自己責任とされ、使用者責任は問われません。

県から配置される定数では足りないので、市町村独自に短時間非常勤の雇用も進めています。ある学校で、正規雇用の担任が病休になり、非常勤の方を県の雇用に任用替えしたという事例がありました。この学校では授業者が足りなくなったので校長が授業をせざるをえなくなりましたが、この状態でも「数字上の未配置は0」です。

それ以外にも、手厚い支援が必要な児童がいるため、特別支援学級に支援員さんが来る予定になっているけれど、人が見つからないという事例もあります。この場合も「数字上の未配置は0」です。しかし、その児童は十分な支援が受けられませんし、担任の過重労働も解消されません。

「足りているのに足りてない状態」は枚挙に暇がありません。

教員の配当数はどう決まる?

教員の配置数は義務標準法(高校は高校標準法)で決められており、標準定数(基礎定数+国庫加配定数)と呼ばれます。

このうち基礎定数は学級数に応じて機械的に決まります。国庫加配定数は、県が国に要求し、認められた数が配分されます。が、基準は不明確です。(国の意向に従順な自治体に手厚く配分される傾向がある、とも言われます)

具体例

仮に学級数16の小学校があったとします。

この場合の基礎定数は、16×1.200=19.2(この乗ずる数は義務標準法で決まっています)となり、配置数(教頭を含んだ数字)が決まります。19.2という数字に対し19人を配置するか、20人を配置するかは都道府県教委が決めます。群馬県は…

配当基準表PDF

「お、群馬は20だ!」と思いますよね。しかし、この表では校長の数も含めているので多く見えるだけです。義務標準法では、校長は除いて計算するので、群馬は教頭を含めて19人配置となります。

義務標準法には「一未満の端数を生じたときは、一に切り上げる」とあるので、その主旨から言えば小数点以下を切り上げて20人とすべきです。しかし、現実にはそのように運用はされていませんし、そもそもこの「乗ずる数」自体が小さ過ぎて現在の教育には不十分ですから、法改正すべきです。

学級数16のこの小学校には校長1人、教頭1人と担任16人及び専科教員2人が配置されることになります。あとはそこに「加配が何人配置されるか」ですが、加配についてはブラックボックスです(全群教は公表を求めていますが、教委は拒んでいます)

35人以下学級で苦しくなった?

「群馬は、国に先駆けて35人以下学級(小1・2は30人)を実施している」と県は誇っています。しかし、現場からは「以前より苦しくなった」という意見が多数出ています。一体どういうことでしょうか?

学級規模を小さくしていくこと自体は賛成です(35人でも多過ぎるくらいです)。しかし、必要な数の教職員が配置がなされないのでは困ります。「1クラス増えたら、1人増やせばいい」という話ではありません。1クラス増えれば基本的に授業は週30コマ増えるので、1人増やしただけでは労働強化となります。

先述の16学級の小学校の例を考えます。35人以下学級の実施で、全学年1クラスずつ増えたと仮定します。

学級数は22となるため基礎定数は 22×1.165=25.63となり、上記の配当表でみると校長1人、教頭1人と担任22人及び専科教員2人が配置されることになります。6学級増えれば授業時数は週166時間増えますが、教員は6人しか増えないので、単純に労働強化になります。しかも育児短時間勤務も、部分休業も、再任用も、すべて1人と数えるため、実際の負担感は数字以上です。(だから校長は育短や部分休の人を取りたがらず、そういった働き方をする人が肩身の狭い思いをさせられています)

もちろんその分、加配教員数を増やしていれば問題ないのですが、教委は公表を拒んでいるため正確な比較ができません。十分増やしているなら誇って公表すると想像されるので、「増やしていないのではないか?」と疑わざるを得ません。

手厚い予算措置?

県教委HPには「県単独予算と国加配を活用して、小1~中3全ての学年を35人以下の少人数学級編制とする」とあり、35人学級のために手厚い予算措置をとっていることを誇っています。(令和5年度教育行政の主要施策

これだけ見ると、「35人学級のために群馬県は頑張ってるんだな」と感じるかもしれません。しかし先述の通り、加配人数の推移はブラックボックスですから、他の名目の加配を減らして「少人数学級編制のための加配」に付け替えているだけかもしれません。

ちなみに同事業の2021年度予算は978,500千円、2022年度は875,500千円、2023年度は798,250千円と、毎年約1億円ずつ減っています。県教委は、少子化が進んでいることを理由にあげますが、「予算がないから仕方ない」と現場に負担を押し付けるのではなく、教育予算増の必要性を財政当局に強く訴えるべきです。

また、この表だけでも「小学校では増学級分だけしか教員数を増やしていない」ことが分かります。増学級分だけの教員増では労働強化になりますから、「35人以下学級実施後に苦しくなった」という感覚は正しいことが、数字的にも分かります。

中学校の方が人員配置は若干手厚い(16学級の小学校なら19人、中学校なら25人)ですが、膨大な時間外労働を前提とする部活顧問を強制されているので、労働時間の縮減は物理的に不可能です。

勤務時間外の部活が既定のものとして存在しているので、勤務時間内の仕事をいくら工夫しても定時に帰ることはできません。土日も強制的に奪われます。「部活顧問を断るため」に部分休業を取得する人もいるので、顧問強制は教員不足を拡大させます。

中学校で未配置が生じると、授業の心配より「部活どうする?」という話題で持ちきりです。教育課程内の人員配置では小学校より余裕があるのに、教育課程外の部活で過重労働から抜けられないという、笑えない冗談のような状況が続いています。(部活の負担がなくなれば、小学校の加配を増やせるのではないでしょうか?)

解決策は?

根本的には、教育予算を増やすしかありません。詳細な説明は割愛しますが、今の教員不足の元凶は、2000年代に教職員給与国庫補助を1/2から1/3に減らしたことにあります。

予算を減らされたため、各自治体は正規を減らし、非正規を増やすことで教員数を確保しました。こうなると、非正規教員が4月から3月までフルタイムで、正規教員とまったく同じ業務(もはや「臨時」ではない)をすることが当たり前になっていきます。

そして非正規教員には「翌年の採用試験で不利にならないために、無理な仕事でも断れない」という圧力が、正規教員には「非正規よりもたくさん働くのが当たり前」という圧力が働き、すべての人の労働強化と学校の疲弊が進みました。

教委の理屈でいくと

①予算がないから正規は増やせない。
②非正規でも、正規と同等の仕事をしてもらわざるを得ない。
③最近は権利(男性の育休、部分休業や育児短時間など)を行使する人が増えたため、代替の臨時教職員が確保できない。
④臨時教職員を確保するため、教員の魅力を発信する動画を作る。

ということになりますが、

①「教育予算を減らしたことが元凶」なのだから、本来は国に対して「誤りを正して教育予算を増やせ!」と強く求めるべきです。しかし教委は国の方針に異を唱えるのではなく、「予算がないから仕方ない」と現場を説得します。法改正が必要ですから簡単ではありませんが、「仕方ない」と言われて簡単に納得していたら現実は変えられません。キング牧師が「黒人が差別されるのは仕方ない」と納得していたら、社会を変えることはできなかったはずです。

②不安定な条件で働いてもらっているのだから、本来は「高い給与で臨時的な仕事」をしてもらうのが筋です。現場は「そんなこと言ってる場合じゃない」のは重々承知していますが、これもそもそも正規雇用の人員が少ないことが原因です。国に法改正を求めるとともに、県独自でも正規雇用を増やすべきです。

③育児休暇を取る人は増えています。3年取得する方もいるのですから、今までのやり方で代替職員が見つかるはずがありません。それは教委が一番分かっているはずです。「せめて1年以上の育休取得者は正規職員が代替する」など、本気で仕組みを変えるべきです。また「部分休業や育児短時間は定数外」とすれば、今のように肩身の狭い思いをさせられることもありません。「予算がない」なら、「群馬の教育のために絶対に必要だ!」と県当局を説き伏せて、何としても予算を確保するのが教委の責任ではないでしょうか。そのための協力なら喜んでしますが、現場に負担を転嫁するやり方には断固反対です。

④教員の仕事はとても魅力的です。しかし働く人の人権を守らないから、人が集まらないのです。つまり教委がやるべきは、「魅力を発信すること」ではなく、「働く人の人権を守ること」です。

いずれにせよ、「こうなればいいなぁ」と心の中で願っているだけでは、現実は変わりません。校長や教委が動かざるを得なくなるよう、教職員自身が声をあげなければ、現状維持が続きます。

全群教の組合員を増やし、声をあげる人を増やすことが、最大の教員不足対策だと考えます。

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