保護者対応について ~弁護士の視点から~

近年、少なくない教職員が保護者対応に疲れて退職しています。私たち全群教は、「モンスター・ペアレント」という言葉を使うべきではないと考えます。しかし理不尽な要求があることも事実であり、教職員を守るための何らかの対策は必要です。その一環として、まずは私たち自身が法的な知識を身に付けるため、村越芳美弁護士を招き、学習会を開催しました。(2024年2月29日)

前半は前提として共通理解しておくべき事項の確認。後半は具体的な事例を用いたディスカッションで学習を深めました。

前提事項

  • 保護者等からの意見・要望・苦情等は、「あるのが当たり前」
  • 保護者の意見・要望・苦情等の背後には「子どもの存在」があることを忘れてはならない
  • ただし、学校は「無法地帯」ではない
  • 学校の中にも、「法律」は当然適用される

「法的根拠」を踏まえた「合理的」な対応をすべき

保護者等からの意見や要望、苦情への対応

  • 不当・不合理な要求を受け入れる必要はない⇒むしろ逆効果になる可能性
  • 「組織的」な対応をすべき⇒複数での対応
  • 対応することのできる「時間の目安」を事前に伝えておく
  • 当初から、対応の記録を正確に残しておく⇒場合によっては「録音」も
  • 保護者の意見・要望・苦情等の訴えが、本当に「子どものため」のものなのか、子どもの利益に反するもの、子どもが希望していないものではないのか、についても十分に見極める必要

子どもの利益に反する訴えに対しては、より一層毅然とした対応をすべき

意見や要望、苦情のタイプ

保護者,地域と学校の協力のために【保護者等対応事例集】(広島県教育委員会)から抜粋

①問題指摘型

子どもによる迷惑行為や学校の設備上の瑕疵等を指摘し、善処・改善を求めるタイプ

学校としても、「非」を正確に把握し、誠意ある回答と迅速な対応を行うことで、以後も良好な関係を保つことができる可能性。

②敏感・神経質型

頻繁に学校を訪れ、次から次へと学校への不平・不満を述べるタイプ

全面的な解決が困難な場合でも、少しでも改善した点を具体的に示すことが大切。

③溺愛型

学校を、子どもと共通の「攻撃対象」とすることで、子どもとの「絆」を保とうとするタイプ

子どもが一緒にいると、必要以上に「威勢」を見せることがあるため、子どもと別の場所で対応するなど、落ち着いた雰囲気の中で、子どもの良さにも触れながら、正しい情報を伝えることが大切。

④利益追求型

金品の要求や、無理難題を押し付けてくるタイプ

脅迫や恐喝に当たる場合があるため、教育委員会や警察との連携を密にとるなどして、毅然とした姿勢を貫く必要。

対応と法的責任

まずは事実の確認⇒当事者ではない人が確認
・事実に基づく訴えなのかどうか。
・事実ではない場合、すべてが虚偽なのか、それとも一部事実が含まれているのか。

「とりあえず謝っておこう」はダメ!

もちろん、非のある部分については謝罪すべき。ただし、一部に非があった場合でも、非のない部分にまで謝罪しない。

学校は「無法地帯」ではない

完全に不当・理不尽な訴え、不当要求については、「これ以上の対応はできない」「これ以上話を聞くことはできない」ことをはっきりと伝えるべき。

場合によっては、警察等への連絡も必要。(警察に、事前に相談しておくことも大切)

管理職や教育委員会は「警察に連絡すること」を嫌う傾向があり、中には「とりあえず謝って」などと言う人もいます。事前に「こういう場合には警察に連絡する」ということを学校全体で共通理解しておくことが大切です。広島県の【事例集】には、警察への連絡についての記述もあります。

保護者,地域と学校の協力のために【保護者等対応事例集】(広島県教育委員会)より

不当・理不尽な訴え、不当要求について、成り立つと考えられること

①民事責任

不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任

②刑事責任

学校に居座り、帰ってもらいたい旨伝えても帰らない場合⇒不退去罪刑法130条)成立の可能性。

暴力を振るえば暴行罪刑法208条)、それによりケガをすれば傷害罪刑法204条)成立の可能性。

「殺すぞ」等言った場合⇒脅迫罪刑法222条)成立の可能性。

声を荒らげた上で土下座や謝罪文等を強要した場合⇒強要罪刑法223条)成立の可能性。

不当な要求に対応しなかったことを理由に、「あの教員は何もしてくれない。無能」等と触れ回った場合⇒名誉棄損罪刑法230条)成立の可能性。

もう対応できない旨伝えても、延々と電話をかけてきたり、恫喝等してきたりした場合⇒偽計業務妨害罪刑法233条)、威力業務妨害罪刑法234条)成立の可能性。

「金を払え」等と怒鳴ってくる等した場合⇒恐喝罪刑法249条)成立の可能性。

いずれにせよ、法的なことについて校長が理解すること、そして学校として統一的な対応(電話で対応する人を決めておくなど)をとることが必要です。不退去罪、偽計業務妨害罪などは、実際にあてはまる事例があるのではないでしょうか。しかし刑事責任に当たることがあっても、こちらがその法律を知り、違法性を相手にも伝えなければ無理が通ってしまいます。何かが起こってからではなく、何かが起こる前に、管理職の研修や校内研修などで取り上げるべき話題であると考えます。

個別事案をもとにしたディスカッション

センシティブな内容を含むため、別ページで。

参加者の感想

法律に基づいた対応の仕方についてたくさん教えていただき、ありがとうございました! とても勇気づけられるお話でした。まずは事実を確認することが大切で、それがきちんと確認できないのであれば、相手の話は聞くとしても、安易に謝るのではなく、「確認ができませんでしたので」というのも必要だと思いました! 不退去罪の存在や偽計業務妨害罪の成立条件など、いろいろ学べてよかったです。

今日の事例については、似たようなことが自分に、あるいは勤務校であったことをたくさん思い出しました。前半の話に出た広島の資料もあとでじっくり読みたいと思います。事例を検討していく中にあった望ましい対応が、その場面でできるかどうか心配にもなります。今回のような学習会、また行いたいですね。とても勉強になりました。

「事実確認」「合理的かどうか」「対応できないときは、はっきり伝える」など、大事にしていくポイントがよく分かりました。自分だけでは、その場その場で冷静に判断できない気がするので、まわりと相談していきたいと思います。

今日の話を知っているか知らないかで、心のもちようがだいぶ違う。管理職や市教委がきちんとしないといけないと感じた。法律を前提とした対応が担任、学校、子どもたちを守っていくということが分かりました。各県のマニュアル、目を通して勉強します。

保護者対応の法的根拠と、事例を基にした対応の仕方を考えられたことはとても有意義でした。群馬県でもマニュアルの作成など、保護者対応を学ぶ機会と方法を進めていければ、と思います。

自分になかった視点を、明確にわかりやすく言葉にしていただけたので、とっても参考になりました。今後、こういうトラブルって増える気がするので、よく学んでいきたいと思います。

法律だけの説明を聞いているときは、「確かに法に照らせばそうだろうけど、保護者相手に警察は入れにくいよな」と思っていました。でも、事例で考えると、対象にされた先生の大変さが想像され、そうも言っていられない、警察と連携した対応も必要かもと思われました。「学校」は保護者の言いなりではなく、不合理な要求には当たり前に、「これ以上対応できません」「もうおかえりください」など、伝えることが大切ということも学びました。また、村越さんもおっしゃっていたように、みんなで事前に学んでおくことが大切だと思いました。特に、校長が適切な対応をとれるようにするために、何より理不尽な要求などで苦しむ教職員をなくすためにも、県や地教委に、しっかり対策(事例集や顧問弁護士など?を含め)をとってほしいと思いました。

理不尽な要求に対して、法律で身を守ることができることがわかりました。ただ、その先頭に立って、動くべきなのは管理職や教育委員会。そこが警察と連携できるようにしていかなければと思いました。具体的には、保護者対応のマニュアルを作ること、電話の録音機能をつけることはすぐに教育委員会に要求するべきだと思いました。「とりあえず謝る」など、対応を間違えると本当に深刻な事態です。保護者とは良好な関係を築きたいものですが、合理的でないものには毅然とした態度で対応したいと思います。

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