プールの水栓を閉め忘れ、100万円の水道代が発生した。あなたには賠償責任がある。◯か×か。

基本的には×。賠償責任はないはずです。

基本的に賠償責任はないはずです。なぜなら職務上のミスを個人の責任にしてはならないからです。しかしここ数年、プールの水栓閉め忘れで教員個人が賠償させられている事例が増えています(詳しくは下の記事をご覧ください)。なぜでしょう?

国家賠償法に「公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する」と書かれていることを根拠として自治体が公務員個人に賠償請求をしたようです。賠償責任はないはずですが、きちんと交渉せずに払ってしまっているのだと思います。

「賠償責任はないはず」ということを知らずに「自分のミスだから」と払ってしまう前例が積み重なると、いつの間にか「個人の責任とするのが当然」という空気になってしまう危険性があります。そうさせないためにも、「それっておかしいよね?」と気づき、声を上げる人を増やすことが大切です。

ちなみに「ないはず」と言っているのは、最終的には裁判で白黒をつけないと「ない」とまでは言い切れないからです(悪質な場合は賠償責任が生じる可能性があります)。でも、もし同僚に組合員がいれば、「職務上のミスで個人賠償はおかしい」と気づいて交渉するはずです。そして交渉すれば、おそらく賠償請求自体を取り下げるはずです。

部活中、生徒が大きなケガをしてしまった。あなたには賠償責任がある。◯か×か。

基本的には×だけど…

部活は非常に難しい問題です。

部活は正式な職務ではありません。「給特法」により、教員には時間外勤務を命じることができないため、校長は命令をせず、各教員が「自発的」にやっていることになっています。法的に考えれば、勤務時間外に自発的にやっていることで事故が起これば個人の責任が問われる可能性があります。

しかしそれでは誰も部活顧問などやっていられなくなるため、部活中の事故で自治体が顧問教諭個人に賠償請求した例は(おそらく)ありません。

2017年に藤岡中央高校で起こったハンマー投げによる死亡事故では、事故当時部活に立ち会っていなかったことで顧問教諭が書類送検されました。顧問個人は不起訴処分(起訴猶予)となり、賠償金は県が支払って両親と和解しました。

本当の問題は、「生徒の命」という負えるはずのない責任を、曖昧な仕組みのまま個々の教師に負わせていることです。再発防止策は「部活は顧問立ち合いを原則とする」ということですが、個人の善意と同調圧力に頼った時間外労働を前提としている時点で無責任です。全群教は、長年の粘り強い交渉の結果、部活顧問の強要はできないことを県教委と確認しています。

2009年の大分の死亡事例は、また別の問題を孕んでいます。公立高校剣道部の部活中、熱中症で朦朧とする生徒に対し、顧問は「これは演技だ!」と執拗なハラスメント・暴行を続けました。生徒は亡くなり、県は賠償金を支払いましたが、体罰をした顧問への賠償請求はしませんでした。(被害者の両親は納得せず、その後も裁判を闘い続けました)

https://news.yahoo.co.jp/byline/ryouchida/20161223-00065787

水栓閉め忘れというミスをして「申し訳ない」と弱みを見せている個人には賠償請求。
執拗な体罰で生徒の命を奪った顧問の責任は県が肩代わり。
感覚的には不思議ですが、どちらも実際の事例です。

全国の事例から学び、「こういう場合、責任の所在はどうなるのか?」という議論を普段からしておくことが大切です。