プールの水栓を閉め忘れ、100万円の水道代が発生した。あなたには賠償責任がある。◯か×か。

基本的には×。賠償責任はないはずです。

基本的に賠償責任はありません。なぜなら職務上のミスを労働者個人の責任にしてはならないからです。

「労働法の考え方」

例えば、使用者が時給1500円で4時間のアルバイトを雇ったとする。そこで2万円の売り上げがあれば、差し引き14000円が使用者の取り分となる。もしバイトがうっかり皿を割って1000円の損失が出たとき、使用者は労働者に弁償させることができるかを考えてみる。

 

使用者が買ったのは『4時間分の労働力』であり、労働者はその労働力を提供した時点で既に責任を果たしている。労働者の労働によって生まれた利益は使用者のものとなるのだから、損失も使用者の責任となるのが当然である。「利益は使用者のもの、損失は労働者の責任」というのではバランスを欠く。真面目に働いていてもミスすることはあるのだから、「ミスをしてしまった」という自責の念に付け込んで労働者に弁償を求めるのは極めて不誠実な態度であるといえる。

しかし実際には、プールの水栓閉め忘れで教員個人が賠償させられている事例が複数あります(詳しくは下の記事をご覧ください)。なぜでしょう?

「ミスをしてしまった」という自責の念と法に対する無知、個人という弱さに付け込んで賠償させられているというのが実態です。残念ながら教育委員会は、教職員個人の人権を守ることよりも、世間体を重んじ、「何もなかったこと」にすることが多いのです。

組合に入っていれば、組合を通して「個人に賠償責任はない」と交渉できますが、「あなたがミスをしたのだから仕方ない」と個別に説得されて払ってしまえば、それが返還されることはありません。

そして、労働者個人が払ってしまう前例が積み重なると、いつの間にか「個人の責任とするのが当然」という空気になってしまいます。そうさせないためにも、「それっておかしいよね?」と気づき、声を上げる人を増やすことが大切です。

ゼニカネの問題だけではありません。おかしいことがまかり通ってしまう労働環境を変えるためにも、労働者は誰もが労働組合に加入することが必要です。「おかしいとは思うけど、自分は関係ないから組合には入らない」という人が多ければ、現状維持が続きます。そして、みんなが組合に入らなければ、いずれ組合は消滅し、誰も「おかしい」と言う人はいなくなります。

「おかしい。自分も無関係ではない」と思った方は、ぜひ全群教に加入してください。

ちなみに「ないはず」と言っているのは、最終的には裁判で白黒をつけないと「ない」とまでは言い切れないからです(悪質な場合は賠償責任が生じる可能性があります)。でも、もし同僚に組合員がいれば、「職務上のミスで個人賠償はおかしい」と気づいて交渉するはずです。そして交渉すれば、教育委員会はおそらく賠償請求自体を取り下げるはずです。

部活中、生徒が大きなケガをしてしまった。あなたには賠償責任がある。◯か×か。

基本的には×

部活は職務命令に基づいた仕事ではありません。

給特法」により、教員には時間外勤務を命じることができないため、校長は命令をせず、各教員が「自発的」にやっていることになっています。法を素直に読めば、命令もされていないことを勤務時間外に勝手にやっていて生徒に大きなケガを負わせたのですから、個人の責任が問われても仕方ありません。

(例:那須雪崩事故

しかしそれでは誰も部活顧問などやっていられなくなるため、部活中の事故で自治体が顧問教諭個人に賠償請求することはまずありません。

2017年に藤岡中央高校で起こったハンマー投げによる死亡事故では、事故当時部活に立ち会っていなかったことで顧問教諭が書類送検されました。顧問個人は不起訴処分(起訴猶予)となり、賠償金は県が支払って両親と和解しました。(でもそれで「あ~、よかった」とは思いませんよね?)

本当の問題は、「生徒の命」という負えるはずのない責任を、曖昧な仕組みのまま個々の教師に負わせていることです。再発防止策は「部活は顧問立ち合いを原則とする」ということですが、職務命令を出せない時間外無償労働を前提としている時点で無責任です。全群教は、長年の粘り強い交渉の結果、部活顧問の強要はできないことを県教委と確認しています。

2009年の大分の死亡事例は、また別の問題を孕んでいます。公立高校剣道部の部活中、熱中症で朦朧とする生徒に対し、顧問は「これは演技だ!」と執拗なハラスメント・暴行を続けました。生徒は亡くなり、県は賠償金を支払いましたが、体罰をした顧問への賠償請求はしませんでした。(被害者の両親は納得せず、その後も裁判を闘い続け、ようやく県は顧問個人に求償権を行使しました)

大分県竹田高校剣道部暴行・熱中症死亡事件

水栓閉め忘れというミスをして「申し訳ない」と弱みを見せている個人には賠償請求。
執拗な体罰で生徒の命を奪った顧問の責任は県が肩代わり。
明らかにバランスを欠いていますが、どちらも実際の事例です。

全国の事例から学び、「こういう場合、責任の所在はどうなるのか?」という議論を普段からしておくことが大切です。